−本当のキモチ−

今回依頼された土地には何の事件もなくて、俺は暇を持て余していた。
同行もしてたし、途中モンスター共も出たけど、実際依頼地についたら何もなくて。
最近的確に依頼をしてると思ったあいつにしては珍しいなと思ってたんだ。


「アホか!!」


「ええっ!? な、何で!?」

真夜中、

宿の一室で俺の怒号が響いた。
怒られている相手は、あの天使だ。

ウィニエル。

今はおでこに両手を当てて半分涙目で口をへの字にして俺を見ている。
それは俺がデコピンしたからなんだけど。

「俺の仕事に口出しすんなっつってるだろ!?」

今まではここであいつが引き下がって終わってた。
でも今日は何だかいつもと様子が違った。

「だって、これは私の仕事なんですもん!」
ウィニエルが部屋に散らかった金品を拾い集める。
「あっ! 何すんだよ!」
俺は慌てて、ウィニエルの手を制止するように両手首を掴んだ。
あいつも多少抵抗したが、俺の力に敵うわけなくて、

「いたっ!離して下さい! …盗った所に戻します!」
両腕を頭の上に上げると、抗議の目で俺を見る。

「…お前…いい根性してんじゃねぇか…」
「…っ…前にも盗みは駄目だって言ったじゃないですかっ!」

あいつは怯まなかった。
俺を責めるように尚も睨みつけている。

俺は義賊だって何度も言ってんのに、こいつは全然理解しちゃくれない。

「…物から手を放しな」
ウィニエルの手は固く握られ、そこに小さな宝石がいくつか収まっていたのを俺は見逃していなかった。
その宝石が惜しいわけじゃなく、ただ、こいつが理解してくれないことが嫌で意地になってあいつの指を一本一本外していく。
あいつの強張る細い指は俺の力で無理やりこじ開けられていく。

ばらばらと。

宝石が零れて、床に転がった。
あいつの腕はまだ頭の上に上げられたまま、身動きが取れないでいた。

「…っ…どうしてわかってくれないんですかっ!」

それでもウィニエルは俺を睨みつけていた。
涙を溜めた瞳が悔しがってるのがわかる。

他のことならあいつに合わせてもまぁ、許せる。
だが、この件に関して俺は譲る気はなかった。

「…お前がわかれよ…」

俺もウィニエルを睨みつける。
何にもわかっちゃいない天使をわからせるには、こうするのが一番。

「うむっ!? んっ…」

あいつの唇の弾力が俺に伝わる。ここは寒い地方だからなのか、あいつの唇はいつもより冷たい気がした。
こうやって、キスをするのはもう何度目だろうか。
舌を入れて、その先までいきたいけれど、あいつはまだそういうことに慣れてないみたいで。それに、今はあいつが怒ってるし、俺も怒ってるんだった。


今はとてもそんな雰囲気にはなりそうにない。
でもせめて、怒りくらいは収めてやろうじゃん?


俺はウィニエルから唇を離した。


「…お前…今目ェ、閉じただろ」
「…閉じてませんよ…グリフィンが閉じたんでしょう?」
ウィニエルは苦笑いを浮かべている。

「いや、閉じた。俺はキスの時は目を閉じるようにって教えたからな」
一瞬だけ、口元を緩めて笑ってやった。
「……閉じてませんってば…… それより、盗ったものを返しに行きたいんですけど」
今日のウィニエルはどうも機嫌がものすごーく悪いらしい。苦笑いをやめてまた俺を睨みつけた。

「だから、これはいいんだって! ……何だよ……らしくないな。何かあったのか?」
あいつのおかし過ぎる行動に俺は小さな疑問を抱いた。

ウィニエルの訪問が増えたのは最近。

俺はウィニエルが来る日にはなるべく”仕事”をしないようにしていた。
何ていうか… うるさいからだ。

でもこうしてみつかってしまうこともしばしば。

だが、大体は不満気な顔でため息をついて終わっていた。
それが今日に限ってこうも食って掛かって来る。


何かあったに違いない。


「……別に…」
ウィニエルはしばらく間を置いて静かに俺から目を逸らした。あいつの視線が床に落ちる。

「お前ってさ、俺のことはわかってないくせに、本当にわかりやすいよな」
「え…?」
俺はあいつの腕を離してやった。

「…あの…」
手を離すとあいつはいつものようにしおらしく指を絡めて、上目遣いに俺を見た。

この目をする時は何かある時だ。

そして、俺はこの目が可愛いとも思う。
絶対あいつには言わないけどな。

「何だよ? 何か言いたいことがあったんだろ?」
ふっと一息ついて、俺は腕組みをして床に座る。

「…グリフィン…」
ウィニエルの瞳がやっと穏やかになって俺の目の前にちょこんと正座をする。

何でだか、あいつが座る時はいつも正座だった。
多分俺が説教する時にさせてるからそれが身体に沁み付いているんだろう。

「で、何なんだ?」

「えと、ね…実は…お願いがあるんです。聞いて…貰えますか?」
ウィニエルはおずおずと、俺に伺いを立てるように告げる。

…こんな時は決まってややこしいお願いだ。


例えば、俺が何で勇者やってるとか、その言葉遣いはどこで習ったとか。


大体、スカウトしてきたのはお前だろうが。今更そんなこと訊くな。
言葉遣いなんか知るかよっ!!


答えにくいから決まってデコピンの刑だ。


ウィニエルは時折話の流れも読まずに、突然わけのわからないことを質問してくる。
いつ、いかなるときも疑問を持つと直ぐにだ。

まぁ、第一印象が”変な奴”だったからしょうがないが。
今でもその”変さ”は変わってない。


変わったのは俺。


ウィニエルの”変さ”に嵌っちまった俺だ。

…というか俺も随分慣らされたもんだよな…と最近つくづく思う。

あいつが何を言っても即座に対応出来る俺がいる。
まぁ、面倒なことは考えもせずデコピンだけどな。

あいつが俺のことをどう思ってるか、これが今一つ掴めないままだけど、多分悪くは思ってないとは…思う。

キスだけは我慢できねぇからたまにするし、あいつも嫌がらない。
嫌がらないから俺を想ってるのかと思いきや、キスした後いい雰囲気になったりは絶対ない。
平気で「次の依頼地なんですけど…」と切り出す。

そりゃ、俺も勇者だから天使の役目があるっていうのはわかるぜ?
けど、せっかくいいもん持ってるんだからもうちょっと色気ってもんを出しゃいいのによ…。
無理やり舌でも入れてやったら途中で頬を膨らまして俺の口ん中におもいっきり息吹き込むっちゅうわけのわからん抵抗をするし。
その後はずっと笑顔で俺にそれ以上のことをさせちゃくれない。
そんで、俺のその気が萎えて、結局それ以上の進展がなんもねぇし、あいつがどういうつもりでそうしてんのかもわかんねぇ。

もう少し、そういうのに慣れてくれりゃあ、もっと可愛くなるのになぁ…。

…・は置いといて、


今はあいつのお願いってやつを聞かなきゃいけないんだった。


あ、ついでに、あいつは俺が仕事をやめないことはわかってるからそれについては意外に言わない。
つまり、さっき突っ掛かって来たのは単に気が立ってるからってことだ。

気が立っているってことは… やっぱり何かあったのか?

「…うーん……いいぜ。言ってみな」

俺がそう告げると、あいつはしばらく間を開け、躊躇いがちに話始めた。

「……勇者レイヴがバルバ島に捕らえられているんです。……どうか助け出しては貰えないでしょうか。もう発見してから3日経っていて…レイヴが亡くなったら私……」

「………」

勇者レイヴ?

初耳だった。あいつの管理している勇者が何人かいるっていうのは聞いていたが、俺が知っているのはナーサディアとリュド……何とかっていう奴だけで、まだ他にもいるらしいが、そいつの名前は初めて聞いた。

そいつに深い想い入れでもあるのか、心底、心配してるような不安な顔。
今にも飛び出してそこへ行ってしまいそうに心が逸って、ぎりぎりでここに留まっているような気さえする。

「……グリフィン、あなたは他の勇者の名前を出すと怒るから中々言い出せなくて……それで私までついイライラしてしまって……あなたに当たったりなんかして……」

あいつの声がわずかに震えていた。
早く助けに行かなければ、そいつは死んでしまうのかもしれない。

「………」

今、俺の心にあるのは、嫉妬心だ。
最近気付いたが、俺は結構嫉妬深いらしい。

けど、あいつがこんなに辛そうな顔をしているのを見るのは俺としても辛い所で。

「どうか……お願いします。レイヴを助けて下さい。こんなことを頼めるのはあなたしかいなくて」

ウィニエルの瞳が潤んでいた。
そういえば、今日は苦笑いを一度見ただけで、それ以外あいつの笑顔を見ていない。


そいつは、お前から笑顔を奪ってしまうほど大切な奴なのか?


いや、

きっと、勇者レイヴっつーのは、天使ウィニエルにとっては大事な勇者なんだろう。
それを救うためにあいつが俺に頼むということは、それだけ俺が信頼されてるってことだよな?

そう無理にでも言い聞かせたとしたら、
それなら、俺はちっぽけな嫉妬心を断る理由に出来ない。

「何で早く言わねぇんだよ!! 人の命が掛かってるんだろ!? 助けに行ってやるよ!」

「グリフィン!! あ、ありがとうございます!」

俺が告げると、あいつの顔が少し明るさを取り戻した気がしたが、いつもの笑顔は見られないままだった。

俺はそのままあいつの手を取り、明かりを吹き消して部屋から駆け出す。
バルバ島までは、ここからならそんなに掛からない。
真夜中だが、一刻を争う緊急事態だ。それに俺は夜に強いしな。

変だと思ってたんだ。

今回依頼された場所には何もなかった。
平和になったわけでもないのに、ただのバカンスってこともないってわかってたし、多分、あいつは俺に頼むのタイミングを伺ってたんだと思う。

「……レイヴ無事でいて……!」

ウィニエルは俺と手を繋ぎながら、繋いでない方の手で祈るような仕草をした。

「………」

助けに行ってやる。とは、言ったものの、
その実、胸中は複雑だった。

俺なら、きっとそいつを助けてやれるだろう。


それで、ウィニエル、
お前の笑顔が戻るなら。


まずは、それだけでいいか、

って。


思ってたんだ。


* * * * *


バルバ島には朝方に着いて、俺は複雑な胸中の中、敵と戦った。

俺って、やっぱ強いよなー…… なんて関心してる場合じゃなくて。
敵が弱すぎなんだよ。

俺の悩みを知りもしないであっという間に勝手に倒れやがって。

「……弱い……」

俺は剣を一振りして、付いた血を掃った。

「倒せて良かった! さぁ!彼は奥に…… あれ……グリフィン、どうしてそんな不満そうな顔してるんですか?」

俺が敵を倒した途端、あいつから笑顔が零れる。
暗い闇に、ぱっと、明かりが灯ったみたいだ。

……う〜ん、複雑だ。


「……ほら、行って来いよ」
俺はあいつの手を引いて告げた。

「え?」

「……俺は外にいる。こっから先はお前だけでも大丈夫だろ? そいつだって、俺に弱ってるとこなんか見せたくねぇだろうし……助けてやれ」
あいつがぽけっとした顔で首を傾げたから、俺は引いた手を放して、今度は背を押してやった。

「は、はい」

そう返事をして、ウィニエルは俺に頭を深々と下げ、喜びに満ちた笑顔でそいつが捕らわれている場所へと向かった。


俺はというと、

あいつの姿が見えなくなるまで見届けてから、外へ出た。


……何、やってんだ、俺は。


ああ、でもよ。


あいつのさっきの笑顔、堪らなく好きだ。


「……馬鹿だよな、俺」


あいつにあんな笑顔をさせる勇者がいたなんて、ショックだぜ。

今頃、あいつはレイヴとかいう勇者と……


「……はぁ……宿にでも帰るか」


ため息を一つ。


空を見上げたら、馬鹿みたく青く晴れてやがった。
平和そのものじゃねーか。

それはさっきのあいつの笑顔みたいで、見ていられなくて、上を向いたまま無意識の内に手で目を覆い隠してた。その時、手に生温く濡れた感触がしたけど、俺は気付かない振りをした。

「……あーあ、馬鹿みてぇ……」

高をくくってたんだ。

あいつは俺を少なくとも他の勇者の誰よりも信頼していて、俺を一番頼りにしていると思ってた。
あいつの笑顔は俺だけが与えてやれるものだって思ってもいた。


なのに、さっきのあの嬉しそうな笑顔は何だよ。


レイヴがいいのか?

俺よりもレイヴがいいのか。


みっともない嫉妬心だっていうのはわかっている。
だけど、今更格好なんてどうだっていいんだ。
俺はあいつに惚れてる。

惚れちまったら、格好良いも悪いも関係ない。

レイヴが死んだって、別に構いはしなかった。
むしろ、死んでくれた方がこの先の俺にとっては、ライバルが減っていいということもある。


ただ、それであいつが哀しむのが嫌なんだ。


嫉妬心よりも勝るこの想いが何なのかはわかんねぇ。
俺が傷つくのと、あいつが傷つくのを量りにかけた時、


俺は、俺が傷つく方がいいって思った。


何があっても、あいつが傷つくのは絶対嫌だ。


「…はぁ…本当、馬鹿だよな…」


俺はどう帰って来たのかわからないまま、元の宿へと戻って来ていた。辺りはすっかり闇に包まれている。

そうか、もう随分時間が経ったんだな。
なんて、関心してる場合じゃない。

あいつはレイヴの元にまだ居るんだろう。

レイヴがどんな奴なのかは知らないが、あいつはもしかしたら…。


そんなことを考えながら部屋のドアを開く。
開いた隙間からぼんやりと明かりが零れる。

「…あれ? 明かり点けっ放しだったっけか?」

昨日の明かり、確か消したはずだった。
それとも、部屋を間違えたのか?


「おかえりなさい、グリフィン」


だが、そのどっちでもなかったらしい。

「う、ウィニエル!?」

部屋の奥に天使が柔和な笑顔で俺の方を見て立っていた。

「遅かったですね。中々部屋に入って来ないから、先に入っちゃいましたよ。明かり、点けちゃいました」

「え?」
「ほら、早く入って下さい。聞いて欲しいことがあるんです」

状況を把握出来ていない俺を余所に、ウィニエルが俺の手を引いて部屋へと誘う。
あいつの小さな手のぬくもりがわずかに伝わって来る。

「お前……レイヴと……」


レイヴと一緒に居たんじゃなかったのか? ……喉まで出掛かって、止めた。


「はい。今日はありがとうございました。レイヴも無事救出出来ましたし、全てグリフィンのお陰です」
満面の笑みでそう告げて、ウィニエルの両手が俺の手を包んだ。

「……そっか、良かったな」
あいつに包まれた手をそのままに、俺も釣られて微笑む。

「……グリフィン……」

ウィニエルは俺が笑うと安心したように微笑み続ける。


そんな顔されたら、


どうだったんだ? …なんて聞けなくなる。


「…良かった。グリフィン怒ってなくて」
「え?」
あいつの両手が俺の手から離れ、その両手は合わさり、口元へと当てられる。
そして、上目遣いに俺を伺うようにして話を続けた。

「私、途中から同行してたんですけど、グリフィンったら怒っててずっと無視してるのかと思っていました」

あいつは変なことを言う。

「は? 何で俺が無視? っつうか、お前同行してたのか?」

そういえば、ここに戻った時も変なことを言ってたっけ。

”中々部屋に入って来ないから、先に入っちゃいましたよ。明かり、点けちゃいました”

ということは、あいつは俺と一緒に居たのか?

「はい。いつもなら私が同行してるとすぐ気付いてくれるのに、どうしたのかと思って」

あいつは真っ直ぐに俺を見つめていた。
俺の瞳の奥を見通すように。

今思えば、どこをどう帰ったなんて覚えてないなんてよ。


あいつが祝福してたから迷わず戻れたんだって、わかりきってることだよな。


「……うん…」


俺は、あいつの肩を静かに引き寄せる。

「グリフィン?」
あいつは首を軽く傾げながらも嫌がらずに俺の方へと引き寄せられた。

「……しばらく、このまま…な」
「……はい……」

俺はあいつの背に腕を回して、金の髪が掛かる肩に顎を埋めるようにして優しく抱きしめた。あいつも抵抗はしなかった。ほのかにあいつの髪から香るのか、花の香りが鼻をくすぐった。


俺の嫉妬心は相当なもんだ。
あいつが傍についてたことも気付かない程、俺はレイヴという奴に嫉妬した。
もし、この先あいつとレイヴが何もないとしても、俺は嫉妬するんだろう。


俺がウィニエルを愛している限りそれは変わらない。


未来、その醜い嫉妬心が原因で、あいつを傷つけることがなければいいと願う。
今回みたく嫉妬心であいつそのものが見えなくなったんじゃあ、あいつを守れない。

「…グリフィン…」
「…ん?」

あいつが名を呼ぶと、俺はこのままで居たかったが仕方なく顔を上げた。
あいつは一瞬、上目遣いで俺を見上げてから目を閉じる。

「………」

俺は無言のまま唾を飲み込んだ。

あいつの長い睫毛、
白く滑らかな少し赤らんだ頬、
潤いのある薄い桃色の唇、

こうして間近に見ると、なんつーか、 …少し照れる。

しかも、これはキスしてくれってことなんだよな。

何だよ、随分大胆じゃねーか。

「………」
頬が熱くなるのがわかった。
そして、もう一度唾を飲み込む。
それから俺はゆっくりとあいつの唇に顔を近づけていく。


…今、目を開けられたら嫌だ。


多分、顔が赤くなってるはずだ。
そういうのは見られたくない。なんつーか、格好悪い気がする。


…目、開けるなよ。


と、俺の気持ちなんてあいつには伝わることはなかった。


だってよ、次の瞬間、


「…くー…」


寝息にも似た、音が僅かに聞こえたんだ。


は?


俺はその音を理解出来ないまま、動きを止める。


「…すぴー…」


今度は鼻から聞こえてきたような気がする。
そして、俺も理解する。


「……寝て……やがる…」


あいつの首が重力に添うように俺の胸に寄り掛かると、俺は肩を落とした。


寝てんじゃねぇよ。


と、軽くあいつの頭を小突いてやりたかったが、無防備なあいつの寝顔を見たら何故か出来なくて、
「………」
俺は無言のままあいつをベッドへと寝かせてやった。


「……んん……」
ベッドに寝かせたウィニエルはうっすらと微笑みを浮かべている。
俺はその傍らに腰掛け、あいつを見つめていた。


いい夢でも見てるのか?


ほんの数分前まで起きてたのによ。

「……気持ち良さそうに寝てんじゃねぇよ……」
さっきまでの高揚した気分を昇華出来ないでいた俺は、幸福そうに眠るあいつにそう告げた。

「……本当はさ、俺の気持ち、わかってんだろ? こら」
人の気も知らないまま眠るあいつに複雑な思いを抱いていた俺は、我慢しきれずあいつの鼻を軽く摘んだ。

「……ううん……」
あいつはいやいやをするように眠ったまま俺の手を跳ね除けるが、目を覚まさない。

今、俺が何を言ってもあいつは起きないだろう。


今なら、素直に言ってしまえそうだ。


「……俺は、お前の本当の気持ちが知りたい」

俺は床に膝を立てて、あいつを覗き込む。

「………」
やっぱりあいつは目を覚まさない。

「俺は、お前のことが好きなんだぜ? お前と居ると、なんつーか……安らぐ…」

お前が俺と一緒の気持ちでいてくれてたらって、思うんだ。

なぁ、世界が平和になったらお前は天界に帰っちまうのか?


何もかもが終わったらさ、俺と一緒に居ないか?


なぁ、ウィニエル。


全部終わったら、俺の、
俺だけの天使になってくれねぇ?


「……ウィニエル……」

俺は眠るウィニエルに静かに自分の唇を落とした。

そんなガラじゃないが、
まるで、眠り姫を起こすどこぞの王子のようだと、思った。


「………」


俺も疲れからか次第に眠たくなって、あいつにキスした後、ウィニエルの隣にうつ伏せるようにして、意識が薄れていく。

これじゃあ、王子でも何でもないか……。

まぁ、いいや、今夜はずっと一緒だ。


……などと薄れゆく意識の中で考えていた。


”……わかってますよ……私の本当の気持ち…いつか…時が来たら聞いて下さいね…”


俺の意識が眠りに落ちた後、あいつが目を覚まして隣に眠る俺の頭を撫でて抱きしめ、そんなことを言った気がした。


眠たくて、
眠たくて、


悔しいが、


あいつが重要なことを言っていたのに次の朝起きた時、何を言ったかまで覚えていられそうにない。
けれど、俺もあいつと同様に笑顔で眠れそうな気がする。


天使の夢でも見ようか。


たった一人、俺の大切な天使の夢を。


ウィニエル、お前も俺の夢を見ろよ。
盗賊で、天使の勇者の俺の夢を。



同じ夢を見よう。



俺も本当の気持ちをいつか、お前にちゃんと伝えるから。


* * * * *


次の日の朝。


朝日が昇り、鳥達の歌声が耳に届くと、俺は目を覚ました。

「……ん? あ、朝か……」
最近は肌寒くて、掛け布団を身体に包めないと第一声にくしゃみをしたもんだったが、今日は違っていた。

「………」
「…ウィニエル…?」

頭上を見上げると、俺を包み込むように天使が眠っている。
どうやら俺はあいつに抱きしめられながら眠りについていたらしい。

通りであったけぇなと思ったんだ。

刹那、


惜しいことしたっ!! とも思った。


だってよ、
まぁ、


なぁ。 (←何よ(笑))


「……んん……」
俺が動いた所為か、ウィニエルが気付いて、ゆっくりと目を覚ます。


「……あ、グリフィン?」
「……よ、よぉ……」
寝惚け眼のあいつが俺を見下ろすと、俺は気まずい顔で手を軽く振った。

「おはようございま……!? ご、ごめんなさいっ! 私、あのまま眠ってっ!?」

あいつは慌てたように起き上がり、俺から離れた。


「………」


あいつはそのまま黙り込んでしまった。
頬が少し赤い。

そりゃあ、そうだろう。
俺は無意識とはいえ、あいつの胸で眠っていたことになるんだから。

はぁ、惜しいことしたよな、本当。


憶えてないんだから。


ただ一つ憶えてるとすれば、


あいつのぬくもりだけ。


天使は寒さやあったかさを感じないって言ってたけど、あいつはちゃんとあったかい。


「ウィニエル」


俺はあいつに手を差し伸べる。

なぁ、もっと傍に来いよ。
まだ、時間はあるんだろう?


もう少し、一緒にいよう。


「……グリフィン……」

俺の気持ちが伝わったのか、あいつは少し躊躇ったのか間を置いてから頬を赤く染めて俺の手を取った。


「……ウィニエル、お前あったかいよな」


あいつが俺の腕の中にすっぽりと納まると、耳元に囁いてやった。

「そ、そうですか?」

「湯たんぽみてぇ」

「湯たんぽ……」

あいつはそれ以降黙り込んでしまった。
まさか、湯たんぽに例えたのが不味かったとか?
いや、でもこの場合、別に悪い意味には取らないだろ。

「どした? 湯たんぽって別に悪い意味で言ったんじゃないぜ?」

とりあえず、フォローしておくか。

と、思ったんだが、あいつ……。


「え? 悪い意味って……? それに……湯たんぽって……何ですか?」


きょとんと、あいつは目を丸くして俺を見上げる。


「……はい?」


「湯たんぽ…… 初めて聞く言葉です。グリフィン、それ、何ですか?」


しまったと思ったが、もう遅かった。


あいつの好奇心に火を付けちまったらしい。
ウィニエルの瞳が生き生きと輝いて俺に答えを求めている。


「ゆ、湯たんぽっつーのはな……」



説明下手な俺が湯たんぽを説明するのに、どれだけ苦労したか。


せっかく、良い雰囲気だったのによ。


言葉じゃ足らなくて結局品物を買い、今度は上手く説明出来たと思ったら、

「なるほど〜、これが湯たんぽなんですね、温かいです。あ、それじゃ私そろそろ行きますね」

あいつはそう告げて、良い雰囲気をぶち壊したあげく笑顔で飛んでった……。
しかも、湯たんぽにペンで何か書いて置いて行きやがった。


俺はあいつが落書きした湯たんぽを手に取って見た。

「あちち」

湯たんぽの中にはお湯が入っていて、素手で触るには少し熱かった。

そこにはお世辞でも上手いとは言えない下手くそな天使の絵と名前が書いてあった。
そして、メッセージ。


”風邪引かないように、私だと思って使って下さいね”


矢印が下手くそな天使の絵、多分……あいつの自画像? へと伸びている。
自画像らしき絵の目? はへの字だから、なんとか笑っているように見えた。


いや、むしろそれを買ったのは俺なんだけど……というつっこみは置いといて、


お前が居ない時も、気持ちは俺の傍にいるってこと、言いたいのか?

なんて思ったりしたが……。


これはわかりづらい。


ウィニエル……お前って、やっぱ変な奴だな。


でも、お前と居るといつまでも、退屈しなくて済みそうだぜ。


「プッ」


俺は下手くそな絵が書かれた湯たんぽを前に、つい噴き出し、笑みを浮かべた。


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*後書き*

設定は冬って感じですね〜。
ウィニエルさん、天然炸裂…。やはりグリフィンさん受難続き。

あーでも、フェインよりグリフィンの方がやはり幸せ度が高い気がする。
やっぱ初めての人だから?(爆)

わーいわーい。(突然何)
何かインフォスのウィニエルがやっと掴めてきました。
天然ボケみたいですね!

う〜ん、おかしいなぁ…こんな子になるはずじゃあ…。

まぁ、いいか。